ボーリング場で「セーラーおっさん」に遭遇した

つい先日のことだ。僕はこの年末年始実家に帰っていたのだが、滞在している間は地元の友人と遊びに行ったりもする。今回は仲のいいメンバー数人で集まり、ボーリングに行った。その時の出来事である。


その日僕たちは駅で待ち合わせして、近くのボーリング場へ向かった。会うのは結構久しぶりなので、最初はちょっとぎこちない。さながら初対面のようだったが、そんな固さも10秒と経たずにアイスブレイクした。やはり気の合う友達というのはいいなぁと嬉しくなった。


年末年始の真っ昼間、しかも予約なしで駅から5分のボーリング場なので、混んでる可能性も高いだろうなと思っていた。しかし幸い、まだそれほど人がおらず、待ち時間ゼロで僕たちはプレイを開始できることになった。嬉しい誤算である。久しぶりのボーリングに加え、僕らもそこまでの道中で、今や完全に「いつものノリ」だ。テンポのよい会話と笑いが戻ってきた。テンションアゲアゲ↑↑である。


ボーリングは楽しかった。1ゲーム目はみな久しぶりすぎてガーターを連発し、そのみっともなさに爆笑し、互いにツッコミを入れつつ終了。2ゲーム目は結構真剣勝負で、抜きつ抜かれつのデッドヒートである(と言っても一番上手い友人で(最終)スコア130前後のおこちゃまデッドヒートだが)。そんなこんなで、僕らのテンションもボーリングも大いに盛り上がっていた。その矢先である。


隣のレーンに、もう一つグループがやって来た。ぱっと見アラフォーのおっさん、5人である。


もちろんおっさんの集団が隣に来たからと言って何がどうなるわけでもない。多少やつれて頭皮がお淋しかろうとも、コートの上からでもわかるくらいお腹がポッコリしていようとも、あるいは若い男女犇めく場内ではちょっと浮いたグループであろうとも、ボーリングに熱中している僕らにとってなんら気にするようなことではないのだ。問題はそのグループがやってきて、約5分後の出来事だ。


一人のおっさんが男子トイレの中からセーラー服姿でさっそうと登場し、その集団に合流した。太い垂れ眉が印象的だった。
f:id:syuraw:20140105232456p:plain

その時の僕らの様子は言葉にしがたい。何しろ突然、1メートルと離れていない場所に「歩く衝撃」とでも言うべき存在が現れたのだ。まさに未知との遭遇である。距離が近いだけにその「セーラーおっさん」のことを話題にすることもできない。僕らも大分いい大人だ。こういうときはそっとスルーするくらいの「常識」はわきまえていた。結果僕らは言葉を失い、なんだか熱も冷めてしまった。


その「不自然(二足歩行)」に目を奪われて沈黙する僕らを気にするそぶりもなく、彼はテキパキとシューズを履き、準備を整えていた。他のおっさんは「がははは」「やるねえ~」とか言いながらセーラーおっさんをはやし立てている。挙句にビデオ撮影まではじめる始末である。どうやらそのセーラーおっさんは罰ゲームか何かでそれを着ているらしかった。「おいおい、ここはコミケじゃないぞ」という言葉をあと一歩のところで飲み込んだのは、たぶん僕だけではないだろう。目の前の展開もかなり不愉快だが、文句を言って「面倒事に巻き込まれる危険」を回避したい気持ちが勝った。


正直これだけでも十分衝撃だったし、僕らは目の前の「それ」を無視もできず、かといって話すこともできず、ボーリングへの集中力は完全に切れていた。その結果天井知らずで盛り上がっていたテンションも急激にしぼみ始めていたのだが、さらに追い打ちをかけることが起こる。


一言でいえばそのセーラーおっさん、めちゃくちゃボーリングが上手いのである。


とりあえず最初の投球動作を一瞥して「あ、この人フォーム完璧だわ」と何の疑いもなくそう確信した。次にその投げたボールが見事なカーブを描き、最前列中央のピンの少し右を正確に捉えあっさりストライクを叩きだしたのを見て、僕はなんとも言えない気持ちになった。多分違う機会に彼を見かけていたのなら、尊敬の念すら抱いただろう。しかしそのおっさんには欠点があった。すね毛踊り狂う生足をむき出しにしてさえいなければ、僕はそのまま弟子入りしていただろう。


セーラーおっさんは終始、後ろめたさの欠片も見せなかった。まさに威風堂々であった。


そんなこんなで僕らは3ゲーム目をただただ消費し、ボーリング場を後にした。今思えば「それ」がプレイの後半に現れたのは不幸中の幸いだ。1ゲーム目からあれが横にいたらどうなっていたか。アイスブレイクどころかそのまま氷河期に突入しかねない。


僕は外に出て、めいいっぱい息を吸い込んだ。寒かったが、空気がおいしかった。

今週のお題「私の年末年始」
年の初めの強烈な体験! 150キロ踏破して見た初日の出。謎のメッセージ。謎のセーラーおじさん、など計7件をピックアップ ―― 前回のお題「私の年末年始」ふりかえり - 週刊はてなブログ

<