夫婦別姓とはまた別の話
小学生のころ、二ノ宮くんという友達がいた。
仲は良くも悪くもない。6年間同じ教室で過ごし、一緒に遊んだりした記憶もあるにはあるけれど、これといって印象的なエピソードは思いつかない。お互いおおむね、なんでもないクラスメイトの一人という認識だったと思う。
彼はけっこう人気者で、仲のいい友達からはあだ名で呼ばれたりもしていたようだけど、僕は普通に「二ノ宮」と苗字で呼んでいた。
中学校に上がる前、二ノ宮くんの苗字が変わった。両親が離婚したとかで、父親の方から母親の旧姓へと変わったらしい。
事情を直接聞けるほど近い距離感でもなかったし、卒業間近だったのでそのへんの記憶は正直曖昧だけど、とりあえず「あいつ苗字変わったらしい」ということだけ聞いていた。
その後、僕らは同じ中学へ入学した。
入った部活も同じだったが、中学に上がったからといって距離感は変わるでもなく。
当然ながら、中学から一緒になった人は二ノ宮くんを、変わった方の苗字で呼ぶ。先生も友達も。
小学校から特に仲のいいやつらはあだ名で呼ぶ。
そして僕は相変わらず「二ノ宮」と呼んでいた。
たまに部活前にみんなで駄弁ったりしているとき、僕が「二ノ宮」と呼ぶような場面が何度かあった。中学からのやつは一瞬「?」という顔をして、一寸間をおいて「ああ、あいつね」となる。二ノ宮くんは特に変わった様子もなく「何?」ってかんじでこっちを見る。
なんとなく、もしかして、二ノ宮って呼ぶのあんまりよくねえのかな?と思った。
これもまた記憶が曖昧だが、話の流れの中で、ちらっとそのことを本人に聞いたことがある。
二ノ宮くんからは「別にいいよ、今まで通りで」という答えだったと思う。
なにしろ6年間「二ノ宮」と呼んでいるので、今さら変わった方の苗字で呼ぶのも不自然だ。
たぶんあれでよかったのだとは思う。
おおざっぱでいつも明るいタイプだったし、そもそも僕が彼をどう呼ぶかなんて、全く気にしてなかったろう。
ただ当時はなんとなく、彼を旧姓で呼ぶたびにちくっと胸が痛むというか、ほんとはどう思ってんだろうなーとは思っていた。
本人はああいってるが、もしかしたら今さら「二ノ宮」と呼ばれたくなかったかもしれないな、と。
夫婦別姓の話題を目にする度に、そんなことを思い出している。