「オレ、喘息持ちなんだよね。」
小学生のころ、「喘息持ち」にあこがれてた。
なぜか?なんか知らんけどかっこよさげだったからである。
そのころ僕は毎日学校へ行くとき、近所のYくんを誘ってから一緒に登校していた。
ある日の朝、しゃべりながら歩いていると、突然Yくんが「ごほごほ」と咳き込んだ。
僕が「風邪?」ときくと、Yくんは首を振り、呟くように「オレ、喘息持ちなんだよね…」と言った。
(なんか、かっこいい…!!)
今なら言える。なんもかっこよくないわ。
当時僕は喘息がなんなのか知らなかったのだけど、病気っぽいものであることはなんとなくわかった。
だが病気とは言っても「ぜんそく」なるものがそれほど重い病気には思えなかったのだ。ゆえに『オレ、喘息なんだよね…』とちょっと弱った感じで呟くのを、「カッコイイ」と思っていた。ただのおバカさんである。
僕は昔からプールが嫌いだった。泳ぐのもそれほど得意じゃないが、何より嫌だったのは、めちゃくちゃ寒いからだ。プールに入る日と言えば当然夏ではあるんだけれど、なぜだか体育でプールがある日に限って曇っていたり、なんなら雨が降っていたりすることが多くて、寒くてたまらなかったのだ。涼むためにプールに入るのに、体冷やしてどうすんだよ!と思っていたが、先生はよほど雨が強いか雷が鳴っているか出ないと、中止にはしてくれなかった。
そんな時たまに、Yくんが「先生、ちょっと今日喘息で・・・」と言ってプールを休んでいた。先生も「おお、そうか。仕方ないな」とあっさり承諾している。寒い中プールに入るのを免除されていたのである。
(ずるい…喘息ずるい…)
いや何もずるくないのだが、当時の僕にとってもはや「喘息もち」は、攻守兼ね備えた完璧な属性だった。普段は「オレ、喘息持ちなんだよね…ごほごほ」ってできる(さりげなーくアピールしたい)し、極寒のプール日には「あ、オレ喘息なんで☆」ができる。喘息っていいなぁ・・・と思っていた。喘息に恋していた。ひっぱたいてやりたい。
◆
この手の話はまだある。
同じくYくんと登校しようと家のインターホンを押すと、Yくんがなんだか口の中のものをコリコリ噛みながら出てきた。
「何食ってんの?」と聞くと、「ん?錠剤」とYくんは答えた。
(ジョウザイ・・・!?)
当時僕にとって「薬」とは、朱色の粉薬だった。あのいかにも怪しい中途半端な色をして、半透明なちっちゃい袋に入った苦い薬だ。僕はあれが嫌でたまらなかった。なのになんだ、ジョウザイって。
どんなものか見たことがなかった僕は、ジョウザイをYくんに見せてもらった。喘息のお薬らしい。
「ラムネっぽい!」と思った。なにこれお菓子?薬なのにお菓子!?
聞いてみると、ジョウザイは普通に水で飲めば苦さを感じないとか。
(ジョウザイ…イイ!!なんだかとってもオ・ト・ナ☆)
Yくんは給食後にもジョウザイを飲んでいた。食器を片づけ終ると「くすり飲まなきゃ・・・」と言ってジョウザイを取り出すのである。プチプチっと二つぶくらいジョウザイを押し出し、口に投げ入れる。用意していたコップを手に取り、水を飲む。それをちょっとほっぺに含ませて、ごくりと飲み込む。ふぅっと一息。・・・なんかカッコイイかも!
その日から僕はお菓子のラムネを買うたび、病気でもなのに「くすり飲まなきゃ・・・」とひとりごちていたのは、言うまでもない。
- 作者: 虎虎,逢坂望美
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