絶望して大人になる。―西尾維新『終物語』~おうぎフォーミュラ

秋の夜長は読書とブログ

「進撃の巨人」の最新刊が待てず、ここ2,3カ月は別マガを買って読んでおります。

別冊 少年マガジン 2013年 10月号 [雑誌]

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めっちゃ面白いですよね。最新話の展開も熱い。アニメ終わっちゃって、少し残念です。2期は数年後になるんでしょうか。


それにしても「進撃の巨人」、もっと早く読みたいのに刊行スピードが遅くて待ちきれない。もっと早く、なんとかならないかなぁ。


まぁ進撃の巨人は置いといて、今日は↑の別マガ10月号(先月号)に掲載されていた西尾維新の「終物語」の感想文です。
化物語戯言シリーズで有名(らしい)西尾維新ですが、なんと漫画雑誌である別マガに8万字の読み切り小説(全4話のうち最初の1話)を掲載してました。41ページとのことですが、凄まじい文字数ですね。ほんとに漫画雑誌かよってくらい読みごたえありました。こっち目当てで別マガ買う熱心なファンも多そうです。

僕はといえば、西尾維新の作品に触れるのは初めてで、化物語やらなんやら、アニメが人気なのはなんとなく知ってるという程度。

とはいえせっかく買った雑誌に載ってたわけだしちゃんと読んでみたいなと思って、この「終物語」を読むため、アニメシリーズ全部みました。

結果、予想以上でした。めっちゃおもろかったです。
僕は羽川派かな。ファイヤーシスターズも捨てがたい。


というわけで準備万端、「終物語」を読んでみました。


「読者への挑戦」に挑戦

アニメを見て感じたことでもありますが、この作品の魅力はなんといっても「小気味よいセリフとテンポのよさ」です。
独特のリズムに乗せられ、スラスラ読み進めることができる。サーファーになって波乗りしているような感触・読み味です。句読点の打ち方とかが上手く、語尾に統一感がある。「~だけど」とは絶対言わず、必ず「~だけれど」ですよね。


肝心の内容はといえば、読者参加型の推理小説でした。
推理の材料はすべて小説中で提示されていて、主人公と一緒に事件の謎を解く「犯人当て」です。


学校の現れた謎の教室に閉じ込めらたアララギ君と忍野扇。
そこはなんと、アララギ君の過去とその思念が生み出した怪異空間だった。

アララギ君が一年生の時その教室で起きた、ある「未解決の」事件。その真相を暴くまで、教室から出られない。

その「事件」とは何か。
それは夏休み前の期末試験でクラス内に起きた「不正」。そして謎解きとは、その不正を引き起こした真犯人を暴くこと。

絶望して大人になる

この話の「事件」によってアララギ君は絶望します。
正しいと思っていたものや信じ切っていたもののメッキがはがれ、その目の前の現実を直視できず、絶望するんです。

ネタバレは一応避けたいので例えを出すと、子供のころはサンタさんがいると信じていたけれどその正体が実は両親だった、みたいな現実、真実ですね。まぁそれよりは数段むごいですが。


残酷な体験かもしれませんが、ある意味こういう、汚い現実を目にすることが、大人になる過程に必要なんじゃないかなと最近は思います。清濁併せもった世界、それがリアルな現実・社会なんだと知ることが、つまり大人になるってことなのかなぁと。人は一度絶望して、大人になるのかもしれない


この物語のジャンルは「青春小説」らしいですが、まさにその通りで、子供から大人になるその過程を描いた話でもあるのかな、と思います。


象徴的なのが、アララギ君の二人の妹、ファイヤーシスターズ。彼女たちは絶対的な「正義」「正しさ」を信じて疑わない。
それが世界なんだ、世界は美しくあるべきだと無邪気に信じているんです。それはつまり、二人が子供であるということ


子供のころは、世界の素晴らしさ、美しさをきかされて育つものです。それがあるとき急にメッキが剥がれ落ち、残酷で汚い世界が現れる。思わず目をそむけてしまう。
その「現実」はたぶん人によってまちまちで、人は平和を願うものかと思っていたら実際は戦争が絶えない事実であるとか、豊かな文明・文化に囲まれ暮らしている今この時も飢餓で死んでいく何百万もの子供がいるという現実とか、正直は美徳だと親や先生言われながらも一国の総理大臣や国会議員が平気で嘘をつく滑稽さとか、あるいはもっと身近な、自分の周りの人間関係の汚さとか、自らの才能の無さとかに絶望する。そういうものに直面して乗り越えてはじめて人は大人になる。


どんな人も、生きようとする限りその現実をいったん受け入れなくちゃいけないんだと思います。受け入れたうえで、そういうものからは逃げるもよし、立ち向かうもよし、適当にかわすもよし。あるいは自分もその「汚さ」に染まりつつ生きていくもよし。

そんな、「大人になる絶望」を描いてるんじゃないかなぁと、読んでいて感じました。深読みでしょうか。


以上読書感想でした。ちなみに謎解きは全くわかりませんでした。こういう「犯人当て」で下手な推理すらできたためしがない・・・

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