わが とうそう

突然だが私はエロ本というものを買ったことがない。

「またまたご冗談を」「それでもチンコついてんですか君」とお思いの方、これは誓って本当のことである。マジで買ったことがない。そして今さらながらそのことをちょっぴり後悔してたりする。いやまぁ、一応まだ二十代前半だし、「今さら」なんて言うほどの年でもないのかもしれんけど、やっぱり男子として一度「エロ本を買う」という行為をしてみるべきなんじゃないかとふと思った。漫画とかアニメではよく思春期男子の通過儀礼っぽいかんじで描かれるけれど、やっぱりみんな買ってるもんなんだろうか。


この歳になるまで買わなかった理由はと考えても「特に欲しいと思ったことがないから」以外には、ない。ただ、興味がないかといえば大ありだったので、より正確に言えば「欲しいと思うこと(を自覚すること)さえないほど臆病だったから」が理由だと思う。誰しもそうだと思うけど、本屋にしろコンビニにしろ、少なくとも店員にははっきり買ってるところを認識される衆人監視下にあるわけなので当然恥ずかしい。その恥ずかしさとエロへの渇望のせめぎ合いで、私の中で後者はあっさり敗れ去り、公にはほとんど顔を出すことはなかった。しかしそれだけならもしかすると、何かの間違いか勢いにまかせるかして買ってしまうこともあったかもしれない。しかし幸か不幸か、私が思春期真っ盛りのころには素晴らしき文明の利器「PC」、そしてエロの無限供給を可能にする神のインフラ「インターネット」が我が家にも整備されていて、そっちで「いろいろと」賄えたのがかなり大きかったと思う。といっても一家に一台しかないデスクトップPCだった上、リビングのど真ん中に鎮座していたので、昼間っから家族の目の前で「エロ 画像」とかって検索するわけにはいかないし、もしそんなとこ母親なんかに見つかったら本気で死ぬくらいの危機感はあったから、夜寝静まったあとの数時間くらいしかチャンスはなかった。


横道に逸れたので戻す。とにかく私はエロ本を買ったことがない。ので、失われた思春期を取り戻すべきなんじゃなかろうか、という話である。また逸れてしまうけど、そういえば私はアダルトビデオをレンタルした経験もない。あの嫌でも目を引く派手なピンクの暖簾。そこを潜って自分好みを物色し店員に差し出すなんて中防の頃はとてもじゃないができなかったけど、でも考えてみれば圧倒的にAVレンタルするほうがハードル低い。今ならわかるがなんというかそもそも、レンタルビデオ屋自体にそういうのを黙認する優しい空気がある。コンビニとか本屋でエロ本買うのとはまた違う。とはいえ実家を離れ一人暮らしを始めて早数年経つ今になってもそういうのを借りたいと思ったことはないので、やっぱりエロの錬金術ことインターネットの影響は計り知れない。エロ本やアダルトビデオが対象だと、なぜだかそれに向かう欲望にもいくらか流れやメリハリが生まれるような気がするけれど、インターネットはそうしたエロい欲望を慢性的に吸い取ってしまう。男子が草食化してる(ようにみえる)のもかなりこいつのせいなんだろう。エロにとってネットはあまりに偉大過ぎた。ちなみに私はビデオ屋で、単なる興味本位でエリア18に足を踏み入れたことくらいはあって、けっこうドキドキして楽しかったんだけど、しばらく見て回った後も、別に借りる必要はないなと冷静に考えて引き返した。単純に「汚そう」っていうのもあったし、それに関しては今考えても至極まっとうな判断だったと思う。


世の男子が社会的な抑圧と自意識と戦い打ち勝つ儀式が「エロ本を買う」という行為ならば、それをすませない限り半人前なんではなかろうか。しかしこれはもはや時代遅れな感性なのかもしれない。エロの供給源が雑誌や漫画にしかなかった時代ならば、その敷居を越えることこそが思春期男子の至上命題だったかもしれないが、しかしこれだけありふれたものになった今ではハードルを設ける意味もわからない。手段と方法、つまり金さえあれば、東京―大阪間を移動するのに新幹線を使うのが普通だ。わざわざ在来線を乗り継いで行くなんてよほど暇な場合のみだ。しかし、それでも、車窓から見える景色は明らかに違うし、もしかするとその違いこそが、今私に欠けている気がしているモノなのかもしれない。


***追記****

昨晩どうしても寝付けないので読書してたら完全に目が覚めてしまって、じゃあ仕方ないブログでもってことでいかにも夜中のテンションで書きましたみたいなエントリあげたら沢山言及いただきました。ありがとうございます。

zuisho.hatenadiary.jp

xkxaxkx.hatenablog.com

bebemu.hatenablog.com

こんな言及来ると思ってなかったんですがそれぞれ何かしら、特にその時代ごとにエロコンテンツ入手の方法も難易度も異なるらしいってあたりが引っかかってくれたらしく、ベッドで女の子腕枕しながら大変面白く読ませてもらいました。はい。

で、まぁそれはいいんですけど、とりあえずこういう時代ごとのギャップや育った環境ってのはやっぱあるんだなと。ズイショさんのおっしゃってたゲーム機の話にしてもそうですけど、エロに限らずその時代のテクノロジーの発達具合ってのはやっぱ影響デカそう。というかそれに尽きると言っていいかも。僕は高校一年でやっと携帯買ってもらえたんだけど、それがちょうど2007年かそこらのモデルだった。ワンセグは見れなかったが一応ネットは繋がったし、適当に画像漁るくらい訳なかったので環境としては恵まれてたんだろう。

もう90超えてる祖母がよく「自分が20歳の頃は戦後まもなくて食べるものもろくに無いわ衛生管理も悪いわで今じゃ考えられない環境だった、しかしそのぶん逞しい。今の若い子は恵まれすぎてる」みたいな話をよくするんだけど、そりゃそんな環境、たぶん日本が一番貧しかった頃を生きた人からしたら僕らが弛んでるように見えても不思議じゃない。世の中便利になって、色んなことがカンタンになれば当然それまで否応なく必要だった「獲得するスキル」ってのは廃れてしまう。その意味で僕はエロを獲得するスキルやマインドってのは薄いんだろうけど、じゃあ今までの人がその獲得に向けていたエネルギーはどこへ行ったんだろうと思った。人の能力自体はそれほど変わると思えないし、たぶん上の世代が持っていないなんらかのスキルに還元されてるんだとは思うけど、それが可視化されるのは次の世代がもっと大きくなってからなんですかね。

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