浪人はなぜ失敗するのか

今高校3年生の受験生は、そろそろ試験の結果が出るころかと思う。私大受験の人はそれも終わって、入学の手続きをしてるかもしれない。ということはもう、浪人を考えてる人がいるはずだ。すでに決めた人に強いるつもりは全くないけども、今年の受験が上手くいかなかったのに「浪人すれば第一志望に受かるはず」とか思ってるならそれは勘違いだ。たぶんあなたは第一志望には合格しない。もし今、すでに合格してる大学があるのなら、多少気に食わなくてもそっちに行った方がいいと思う。


成績的に合格確実だったはずなのに不運にも試験当日に病気になったとか、あるいは医学部受験生なんかはまた別だろうけど、僕自身1年間浪人してみて、それが自分が思い描いた通りに上手くいくなんてありえないと思った。むしろ前の年より結果が悪くなる可能性だってある。


理由はいくつかあるが、まず単純に飽きる。よほど勉強好きでない限りは2年も連続でみっちりガリ勉するなんてできない。大体夏を過ぎたころには息切れして失速するのだ。浪人の勉強とはつまりそれまでに覚えたことの焼き直し+αなんだから、やる内容はほとんど同じだ。飽きない方がおかしい。

現役時代の勉強でほとんど覚えたから楽勝だよ、と思ってる人がいるかもしれないけど、甘いと思う。今は全然そんな気がしなくても、何もせず1年経てばその知識はほとんどすっからかんになる。浪人するならこれからまた1年間、常にその知識をメンテナンスしなきゃいけないのだ。これは思った以上に骨が折れる。浪人の難しさは何より「継続することの困難さ」にあると思う。


次に思うのは、浪人する「環境」だ。当たり前だが、あなたはこれからもう高校にも通わない。代わりに予備校かどこかで、毎日毎日ずっと机にかじりついて勉強することになる。はっきり言うがこれは地獄だ。

来る日も来る日も家と予備校を往復し、参考書とにらめっこ。気分転換になるような授業も、体育も、イベントも、部活ももうない。そりゃたまにOBとして顔出したりもできるかもしれないが、浪人している身であまり堂々とはできないだろう。そしてなにより辛いのが、そばで励まし合える友人がいないということだ。「受験は団体戦」なんて言葉があって、僕も現役のころはよく先生に言われたけれど、皮肉なことにその本当の意味は浪人しないと分からない。周りに自分と同じように入学し、一緒に3年間過ごし、そして受験を迎える学生がいるという安心感がどれほど支えになっているか。たとえ友人とまではいかなくても、慣れ親しんだ学生生活の仲間が数百人いるってだけでかなり違う。


受験はもともと個人戦?そりゃそうかもしれないが、それはあくまで試験当日の話だ。正確には「受験は団体戦」ではなくて、「受験は団体戦としてやるべきもの」だと思う。試験までの1年は団体戦として、試験当日は個人戦としてこなすのが、環境としては一番いい。普通の進学校ならば学年全体が(もしかしたら先生も一緒に)そういう「ムード」を作ってくれるんだから、これほどありがたいことはない。

今年現役生として受験し、また来年に向けて浪人しようと考えている人は、今までやってきた環境が実は大学受験には最適なものだったということ、これから自分は一人孤独で、同じ悩みを共有してくれる人もいない環境で闘うんだということを自覚するべきだ。ここまで言えば、予備校に通わず家や図書館で勉強する、いわゆる「宅浪」がどれほどいばらの道か、わかってもらえると思う。


また浪人してもどれほど成績が上がるのかは不明というのも大きい。今まで現役時代真面目にやって来た人ほど伸び代は少ないのだ。浪人してみればわかるが、びっくりするくらい成績は伸びない。考えてみれば当たり前で、それまでも(合格こそしなかったものの)それなりに勉強してきたんだから、そこから成績を上げるのはさらに難しい。よく言われるように、偏差値40を60にするのは比較的簡単でも、60を70にするのはその倍かそれ以上の勉強量が要ると思う。

これがなぜ重要かと言うと、現状がそう悪くないにせよ「勉強していても思ったほど成績が伸びない」という事実はかなり堪えるからだ。なんでダメなんだろう、まだ足りないのか、こんなにやってるのに・・・と悶々として、しまいには勉強自体嫌になってしまうかもしれない。そうして一度継続していた勉強をやめるとまた再開するのはさらに難しい。浪人はモチベーションを保ちながら、とにかく勉強し続けることが何より大事だと思う。今までそれなりにやってきた自負がある人ほど「伸び代はない」と覚悟しておいた方がいい。


最後は浪人生にのしかかる「プレッシャー」だ。現役のころとは違い「もう後がない」というプレッシャーやストレスと1年間付き合い続けることになる。また何をおいても「浪人生」という、言ってみれば社会的な身分のはっきりしない、どこにも属していない人として過ごす。僕はこれがかなり心細かった。根無し草のような、足元がおぼつかないような感覚を常に持ち続けるのだ。たまに気分転換に友達と遊びに行ったりしても、どうにも心から楽しめない。

しかしこの辺は、切り替えの上手い人なら大丈夫だろう。高3まで体育会系の部活でしごかれてきた人が浪人の成功率が高いのは、この辺の切り替えの上手さにあると思う。体力と集中力があり、なおかつオンとオフをはっきり区別できる人が多い気がする。とはいえ、そんな人もみなプレッシャーを感じることには変わりない。現役時代に周りの環境なんかもありあまり感じなかった重圧がもっと大きくなると思う。



ここまで累々と浪人の恐さを書いてみた。他にもあるけど、大体このへんが一番大きな障壁になると思う。さっきまで「今からやれば1年後は東大っしょ。楽勝でしょ」とか思ってた人いませんか。はい、3年前の僕ですね。


こうやって散々脅してはみたけれど、もちろん成功する可能性は0じゃない。どこまでほんとか知らないが、当時僕が浪人を決めたときある友人に聞いたのは、「浪人生のうち、成績が上がるのは2割、5割は良くても現状維持、残りは下がる」という格言っぽい言葉。これを聞いてあなたはどう思うか。「2割は成績あがるんじゃん」なんて楽観視して、自分は大丈夫さと思ってる人はたぶん危ない。これは裏を返すと「現役生より1年多くみっちり勉強しているはずの浪人生でも、8割は成績が上がらない」ということだ。これは今だからわかることだ。さっき書いた「伸び代は少ない」こととも無関係じゃない。

誤解があるかもしれないけれど、ある程度真面目に浪人すれば、誰でも少しは成績は上がる。ただしそれを維持するのは難しい。何度でも言うが、浪人は勉強を継続することが何より辛くて厳しい。1年やっていくうちに、誰でも一度は投げ出したくなると思った方がいいだろう。

さらに脅すようだけど、たとえこの2割に入れたとしても、それが結果に結びつくとは限らない。「成績が上がること=良い結果がでること」ではない。むしろ結果を出したいと思う気持ちが強いぶん、プレッシャーに負けてしまうリスクは大きくなる。



それでも浪人するんだという人は、まずは「自分が一年間勉強を継続できるシステム」を作るべきだ。僕が思う一番有効な方法は、なんらかのコミュニティに属すること、同じ境遇の人と繋がること。予備校なら予備校で、高校の同級生など、同じように浪人した人がいる環境に身を置くべき。もし友達がその予備校にいないなら、なにがなんでも新しく作るべきだ。僕も予備校に通っていたけれど、運悪くというか、仲の良い友達で浪人するやつはいなかった。しかも「友達をつくるために浪人したわけじゃないしな」とか思って、予備校でも特に誰かと積極的に絡もうとはしなかった。今思えばこれは失敗で、夏休みや秋~冬の一番きつい時期にめっちゃ後悔した。(できれば自分より高い志望校の)戦友をつくって、そいつ(ら)と徹底的に馴れ合うべきだ。


僕が今まで挙げてきた「失敗をまねく要素」について対策を立てておくのはもちろん、浪人するなら最初からロケットスタートを切らなきゃいけない。「まだ4月だし」「5月だし」とか言ってると、2ちゃんねるの某コピペみたいになる。最初っから本気出せ。大体3カ月くらいで最終目標の成績・偏差値に届かなかったら受験なんて諦めた方がいい。3カ月死ぬ気で頑張って、あとはその貯金で乗り越えるべきだ。序盤で成績が安定すれば精神的にもかなり楽になると思う。


とにかく、浪人は基本的に失敗するものだということはあらかじめ覚悟しておいた方がいい。ここまで言ってもまだ想像つかない人もいるかもしれないけど、それもある意味仕方ないっちゃ仕方ない。大学は楽しいので、ぜひがんばってほしいなと思う。

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