世界を変えた天才の「英雄譚」:映画『ソーシャル・ネットワーク』

面白かった。フェイスブック創始者かつ現CEOのマーク・ザッカーバーグの人生を追った物語。

映画はザッカーバーグフェイスブックのアイデア提供者と共同創設者の友人と示談交渉に臨んでいる、なにやらただならぬ雰囲気をたたえた場面からはじまる。結末が最初に提示されていて、そこに至るまでの経緯を回想という形で追っていく構成で、つまり時系列を現在⇒過去⇒現在というふうにごちゃごちゃにしている。たぶん映画的には「世界を変えた天才の成功の陰に何があったか?」「そこから見える天才の素顔とは?」みたいなテーマなんだろうと感じた。


さて内容。観終ってみて、天才IT企業家ってのは現代における英雄なんだなーと思った。天才がテクノロジーという聖剣を武器に世界を変える物語。ジョブズホリエモンは現代的な英雄譚の主人公なのだ。なんだかここ数年どんどんそういう企業家がメディアで目立つようになって、それに感化された人が彼らを祀り上げている(ように見える)けれど、そしてそれに対してどうもよくわかんないなという感じがあったんだけど、なるほど英雄なんだから憧れて当然、祀り上げて当然という気もしてくる。こういう成功話を見せるのも英雄の凱旋っぽい。そして凱旋(成功)叶わなかった、創設途中で挫折した名もなき英雄たちの失敗談は語られることはない・・・・


映画を観るに、ザッカーバーグは「天才IT企業家」というフレーズからイメージする人物そのままだった。とにかく純粋で、目的に対して一直線、合理的に導き出した最短距離を突き進む。それゆえに周りの人との摩擦が生じて、あとあと問題を起こしやすい。ずば抜けた頭の良さがカリスマ性となっていろんな人を惹きつける。


たぶんこういった天才というのは巨大な大河のようなもので、ひとたび流れ出したらそれを止めたり方向を変えることなんてできないんだと思う。良いことも悪いことも全部一緒くたに押し流す圧倒的なパワーとスピード感。最初のころフェイスブック創設の資金を提供していた友人も同じくハーバードのルームメイトで、決して能力がないわけじゃないんだろうけど、結果的にはザックや他のメンバーが作り出すエネルギーの凄まじさに弾き飛ばされたように見えた。もしそんな天才が身近にいたら、そして天才の為すことに関わろうと思うなら、その天才とはまた違った分野、天才ひとりでは埋めきれない穴を埋められるような才能を持っていないと務まらないんだろう。


たとえば日本の漫画産業なんかはその辺のことをよく理解したうえで、効率よく天才を世に送り出しているように見える。漫画家と編集者は、マンガを書くためだけに生まれたような天才作家(バクマン。でいう新妻エイジみたいな)と、その天才が漫画制作だけに打ちこめるような環境づくりをする器用かつ要領のいい万能型選手のツーマンセル。この映画にもそんな描写があって、なるほどこれは成功への方程式の一つなのだなと思った。まぁある分野の圧倒的な天才とそれを補完するオールラウンダーがタッグを組むんだから、成功しない方がおかしいちゃおかしいんだけど。


そんなわけで、とても面白い映画でした。

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