米澤穂信『折れた竜骨』

一昨日、米澤穂信の『折れた竜骨』を読みおわった。

折れた竜骨 上

折れた竜骨 上

折れた竜骨 下

折れた竜骨 下

米澤穂信の小説はこの他に古典部シリーズとボトルネック、読みかけの小市民シリーズを持ってるんだけど、その中では一番面白い。

中世ヨーロッパを舞台に、騎士やらデーン人やら魔術師やらが登場する。設定だけみればさもありなんなファンタジーといったところだが、内容はかなり本格的なミステリー小説だ。その設定一つ取ってもライトノベルっぽい何でもアリなものではなく、時代背景や街の雰囲気など、資料を元にかなり凝ったものになっているので、西洋の歴史小説としても成立している。大学受験時にやった世界史がほんの少し、あとは大学の教養科目で得た知識が多少役には立ったけれど、それも「心当たりはありますが」って程度であった。その辺に詳しい人がいたらかなり楽しめるんじゃないかと思う。(後ろの方に参考資料が載ってるのでそっちを読み込んでみるのも面白いかも)


魔法や騎士が活躍するといっても、この本はミステリ小説だ。「殺人が起きて、その犯人が誰か探偵役が推理する」という、骨格だけ見れば他のそれとなんら変わらない。魔法は現代でいう科学捜査の道具、あるいは殺人の方法としての役割を担っている。一見何でもアリに思えてしまう「魔法」の存在によって際立つ、「論理」への信頼。魔術の知識があり、また使い手でもある騎士ファルクがそう言うのだ。

ニコラ、何も見落としてはいけない。そして考えろ。お前には素質がある。真実を見つめる勇気がある。理性と論理は魔術をも打ち破る。それを証明するんだ。

このシーンはビビッときた。後から読み返すとまたさらにかっこいい。


そして意外と熱いのが後半のバトルシーン。この小説はミステリーだと書いたけど、構造的には王道のバトルファンタジーとミステリの二本立てだ。一方で犯人当ての推理を進めながら、一方では不死のデーン人襲来と死闘が待っている。内容がとても凝ったものだけに、もし犯人当てだけがメインなら途中で挫折していたかもしれない(『ボトルネック』は中盤かなり辛かった記憶がある)。


ラストの「儀式」、つまり推理のお披露目シーンのどんでん返しは流石。騙されまい、作者の思惑には乗るまいと何人か犯人候補に辺りを付けたんだけど、全然的外れだった。ミステリは大好きなんだけど、なんで好きかってこういう「綺麗に一本取られた感」がやみつきになるからなんじゃないかと思う。同作者の『愚者のエンドロール』で誰かが言っていた「ミステリは作者と読者の勝負」という言葉を思い出す。負けました。


ここから余談だけど、ファンタジー+ミステリで思い出したのが『ハリーポッター』シリーズ。あれもイギリスを舞台にした魔法ファンタジーだが、でももう一つミステリとしての側面がある。魔法を使ったバトルやクィディッチも見どころだけど、物語の大半はホグワーツでの生活とそのところどころに散りばめられた謎をハリー達が追っていく様がメインだ。

ちなみに韓国なんかでは推理小説みたいな本は全く流行らない(って教授が言ってた)。理由は、推理小説の中で起きるような「計画殺人」みたいなことが韓国ではあまり起こらなくて、現実味がないかららしい。綿密に計画練って、凶器も工夫して手がかり残さないようにみたいなことが果たして日本でどれくらい起きてるのか疑問だけど、昼の刑事ドラマ一つ取ってもミステリが日本人によく馴染んでるのは確かだと思う。


最後脱線したけど『折れた竜骨』面白かった。おすすめです。

満願

満願

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