「 Pink~奇妙な夢」―Mr.Children


Mr.Children Pink~奇妙な夢[(an imitation) blood orange ...

最初聴いたときは出だしから「うわなにこれ気持ちわるっ」と感じ、さっさと飛ばして次のトラックに行くくらいは嫌いな・・・いや嫌いというほどでもなく、今思えば食わず嫌いな曲だった。この印象が覆ったのはかなり最近になってからで、去年[(an imitation) blood orange]のライブに行ったときに演奏されたのを聴いて、「あ、いいな」と思った。

そのライブは僕にとってはじめてのミスチルライブだったのだけど、やっぱりCDに焼かれ製品化されたものとは、セットリストのどの曲も、かなり別物だった。CDのほうでも僕としては充分満足していたし今もどちらかといえばライブより好きなんだけど、ダイレクトに鼓膜へ届く歌、数万人が収容されるドーム、まわりは全て僕と同じかそれ以上のミスチルファンという異常空間、小さいながらも生で観るバンドメンバーなどは、ipodとイヤホンで聴いてるだけでは手に入らない体験だろう。かなり楽しかった。

「奇妙な夢」は、あまり聴かないばっかりに最初は曲名すら忘れているほどだったのだけど、ライブで演奏されたそれはとてもよかった。このライブをすべて聴き終え振りかえってみたときやはりいくつか特によかったと感じた曲があるのだけど、この曲はそのひとつだ。僕が勝手に「絶叫系」と名付けた「奇妙な夢」「天頂バス」「hypnosis」の3曲は、ライブだからこそいいと感じた節がある。それまでは好きでも嫌いでもなかった。

「奇妙な夢」でいえばサビの部分のラスト、

本当の二人より 少しましに見せてくれるよ

の部分だが、ここで桜井さんが声を枯らし、最後の一息まで絞り出すように歌うのが素晴らしかった。声の波を身体全体で受けるような臨場感。パソコンやipodで聴いているだけではイマイチわからない部分だけれど、ライブでは歌手の声量の違いが――つまり小さく歌うのか、ちょっと強めに歌うのか、声を枯らすほど絶叫するのかという違いが――これでもかってくらい明確に伝わってくる。ライブは「絶叫系」を聴くためにある!と言うとまぁ過言だが、デジタル音声とはまったく別物なのはたしかだ。上に貼った動画でも雰囲気は伝わると思うけど、ここだけはどう考えてもライブに比べ大きく劣る。プロの歌手の肺活量のなせるわざか、とにかく半端ではない迫力だった。もっと近い席で聴きたかったなぁ。


はじめてこの曲を聴いた印象を「気持ち悪い」と最初に書いたけど、歌詞を見てもかなり独特だ。曲のサブタイトルからして「奇妙な夢」だが、たとえば

紫色の渡り廊下で 顔のない男と出会う
僕の方を見て笑ってるから 別にこわくはないが
歩けない

いや怖いだろ!とツッコミを入れたくなる。紫色の廊下?顔のない男?この時点で充分こわいのに「僕の方を見て笑ってる」って、怖いよ。歩けなくて正解だよ。

とはいえタイトルにある通りこれは夢なんだろう。たぶん、作詞した桜井和寿の。夢ってたしかに、自分でも「わけがわからないよ」なものばっかりだ。夢の中にいる自分も、たしかにその夢の状況に応じて嬉しかったり怖かったりとなにか感じている気はするんだけど、目が覚めて冷静に考えると「なぜそこでそう感じんだろう」みたいな、ちぐはぐな感情なことが多い。でもたまに自分でもびっくりするくらい剥き出しの自分の感情を感じるときがあって、起きてしばらくたってもドキドキしてることがある。今こうして目が覚めて活動している間に脳が感知する感情は、たぶん何層か理性のオブラートに包まれていて、そこを通ってきたものだけ言語化できるくらい形になった感情としてなんとか認識できるんじゃないかなぁと考える。それが夢の中だと、オブラートはないんじゃないかなと思う。夢の中の僕は文字通り剥き出しの素っ裸で無防備で、夢のシチュエーションは無意識に考えたり感じたりした体験の濃い部分を抽出したようなもんかもしれない。「夢はつまり想い出の後先」・・・



Mr.Children Pink 〜 奇妙な夢 〜 TOUR '04 シフクノオト ...

冒頭に貼ったのは昨年行われたツアーライブの映像だけど、こっちは2004年のものだ。「Pink~奇妙な夢」はもともと2004年リリースのアルバム「シフクノオト」に収録されている曲なのだ。この二つを見比べた限り、僕個人ではこっちの「シフク」の方が好きだ。10年近く経てば同じ歌手同じ歌といえど歌い方に違いは出てくるもので、まぁ普通に考えて全く同じという方がむしろおかしいかもしれないけれど、桜井さんの場合もやっぱり違う。「an imitation」のほうは歌より桜井さん本人が目に出ている印象を受ける。歌うこと、演出することに意識がいってる感じだ。後者の「シフク」バージョンは、むしろ歌が目に出て、桜井さん自身はひかえめに後ろにいる気がする。歌うんではなく、流しているような。でもこれ、ある程度聴き慣れて見慣れた人でないとどっちも同じに聴こえるかもしれない。別に「君らにはわからんかーわからんよなー」みたいなこと言いたいんではないけれど。まぁ違うもんは違うのだ。

シフクノオト

シフクノオト

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