『かぐや姫の物語』を観て

スタジオジブリ高畑勲監督の「かぐや姫の物語」を観てきました。
感想書きます。ネタバレはありってことにしておきます。

総評

とてもよかったです。期待以上でした。
僕の中の映画の良し悪しを決める基準は、観終った後にどれだけ自分の心に突き刺さるものがあるか、です。

上は観終わった直後のツイート。つまりファーストインプレッションなんですけども、なにやら高畑監督をdisっております。ようはそれだけ突き刺さったってことなんですが、これじゃあ良かったんだか悪かったんだかわからんですね。


僕は映画を観るとき、その映画を理性ではなく感情で捉えるタイプです。するとどうしても感情的になって観終わった後大いに揺さぶられるんですよね。で、今回揺さぶられた理由と言うのが、あまりに残酷な、救いのない物語だったから。結論から言うと、かぐや姫は結局殺されたんじゃないかと思いました。


姫の犯した「罪」

かぐや姫の物語』の煽り文句、「姫の犯した罪と罰。原作にも確かに、これにあたる文章がある。十五夜かぐや姫を迎えにきた、月からの使者の言葉です。

かぐや姫は、罪をつくり給へりければ、かく賤しきおのれがもとに、しばしおはしつるなり。罪の限果てぬれば、かく迎ふる

http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/taketoripage.htm


かぐや姫は月の都にいたときに罪を犯した。それゆえ罰として地球に「降ろさ」れたのです。ではかぐや姫の犯した罪とは何か。地球に降ろされることがどうして罰となりうるのか。


僕はこの「罪と罰」のうち「罪」により強い興味を抱いてました。高畑監督はこの「罪」をどう捉えたのか、どんなものだったと推察したのか。結果から言えば、残念ながら監督独自の答えは提示されなかったように思います。ただ「地球での暮らしにあこがれた」という罪。原作にある通りです。

【月】:清らかな世界
生きる悲しみなどない、不浄な感情は一切ない場所。天国。

【地球】:混沌とした世界
喜び、悲しみ、妬み、裏切りがあり不条理も絶えない。鳥・虫・獣が生き四季がめぐり草木が芽吹く。

上記は月と地球の対比。


月の都の人にとって地球とは、罰する人間を「降ろす」場所。つまり月の方が上なんです。喜びや悲しみなんて不浄だ、我々月の都に住むものが持つべきものじゃないと考えている。かぐや姫はそんな月の人とは違い、地球に興味をもった。月の方が上だと信じている月の人にとって、これは裏切りです。これがかぐや姫の犯した「罪」。*1そして、そんなに地球が良さそうなんだったら一度降りてみるがいい、と月の人は言った。つまり地球で「生きること」、それが月の都の人がかぐや姫に課した「罰」だった。


でもそんなことは、かぐや姫にとって罰でもなんでもない。ずっと憧れていた地球での暮らしができるということに胸躍らせていたのです。そして地球に降りてきた後も、野山を駆けまわっているような生活が大好きだった。


しかし生きることは必ずしも楽しいことばかりではありません。時には悲しみに暮れたり、裏切りにあったりする。都での暮らしは、かぐや姫にとってただただ辛いものだった。貴公子に求婚されてもその裏には薄汚れた感情と偽りがある。育ての親である媼以外は、かぐや姫の気持ちなんてこれっぽっちも分かってくれない。そんな絶望の中で、ついついかぐや姫は「清らか」で「不浄な感情」のない月の世界に助けを求めてしまう。

かぐや姫は結局“殺された”

月に助けを求めたことを、かぐや姫はすぐに後悔します。生きる辛さに負けてつい月の清らかさを求めてしまったのです。月の生活なんてかぐや姫にとって「生きている」とは言えないのに。しかし一度求めてしまった助けは、もはや取り消しできなかった。かぐや姫は月に戻される。


喜びや楽しさだけでなく、辛さや絶望もひっくるめて「生きること」。清らかで平坦な天国での生活など、生きているとはいえない。結局かぐや姫は月に連れ戻されるわけですが、この時かぐや姫は死んだ、もっといえば殺されたと言いえるのではないか。清濁併せもつ混沌とした世界こそが「生きる」場所であり、そこから引きはがされたかぐや姫がこのさき月で暮らしても、もはや生きていると言えるのか?答えはNOだと思うのです。月の人にとってかぐや姫を連れ戻すことは「罪を許す」行為ですが、かぐや姫にとってこれこそが本当の「罰」だった。かぐや姫は月の人の意にすら反し「死罪」に処せられたんだと思います。これが残酷でなくてなんでしょう。話の随所にちりばめられたユーモアも言い訳にしか思えない。


最後まで救いのない物語でした。文句なく傑作です。

続き⇒かぐや姫は高貴なる田舎娘。―『かぐや姫の物語』を観て② - Ust's Diary

風に吹かれて

風に吹かれて

*1:かぐや姫は月の都でもくらいの高い人だったからこそ、こうした裏切りが許されなかった。

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