少女と男と茶色い子猫
少女
朝だ。ベッドから起きだして、窓を開ける。
視界に雲ひとつない空が広がる。いい天気ね。眩しいなぁ。
うわっ木枯らし。風冷たい!
ぶるぶる。
ミャア。
えっ、何?
下から聞こえた。
あ、道路のわきに・・・小さな段ボール。
あ、茶色い子猫がいる。
捨て猫だ。かわいそうに。
朝から気が滅入っちゃうなぁ、もう。
誰よ、捨てたの。
あら、向こうから誰か歩いてくる。素敵なトレンチコートね。
歩き方もゆったりしてるわねぇ。きっと頭の良い方だわ。
あ、立ち止まった。・・・・じっと子猫を見つめてる。
近づいてく・・・・あ、しゃがんだ。
子猫を撫でてるのね。手つきがとっても優しい。
こっちに背を向けてるのでわからないけど、何か話しかけてるみたいね。
子猫、気持ちよさそうに目を閉じてる。あんなに可愛いのにな。
ほんと、誰が捨てたんだろう。ひどいことするわね。
あ、子猫を抱っこしてる。そのまま帰っていくわ。
よかったね。今度は可愛がってもらえるといいね。
あの人ならきっと大丈夫。私にはわかる。
ほっ。
あ、もうこんな時間。一階からも朝ごはんの匂いがしてきた。
今気が付いたけど私、腹ペコだ。
◆
男
朝か。結局一睡もできなかった。
朝日が眩しい。俺を責めたてているようだ。
しかたない、支度するか。
意外とああいうことできないんだな、俺。
俺は平気かと思ってたぜ。はぁ。何も食う気しない。
よく考えてみりゃ今時段ボールに入れて子猫を捨てるって、マンガかよ。
いやマンガでも見ねえよ。
はぁ。これから出勤かよ。でもまだ時間あるな。
ちょっと見に行ってみるか。ちょっとだけだ。
・・・ん・・・・・やっぱ、いるよね。いますよね。
てかたった一晩で誰か拾ってくれるわけ、ないよな。
まぁひょっとしたらとは思ったんだが。
ちっ。
こうやって撫でてると確かに可愛いんだがな。やっぱ俺には飼えないんだよ。
ったくあの女、勝手に連れてきたと思ったら、次の日には放っぽりだして出ていきやがって。
お前もほんと、運の悪い奴だよ。なぁ。
・・・・・。
ごめんな、こんな小せぇ段ボールに残してきて。
俺も結局、あの女と同じだよな。
・・・・・。
やっぱこのままじゃ落ち着かない。ケジメはつけないと。
保健所、連れてくか。このまま飢えて死んじまうよりいいだろ?なぁ。
・・・・・。
目から汗。
・・・ずっとこうやって撫でていたいが、そうもいかないよな。
よいしょっと。意外と重いな、お前。
・・・運の悪い奴だよ、ほんと。
あぁ、なんか、腹減ったなぁ。
◆
子猫
ふぁあ、朝か~
まーだ腹いっぱいだ。おいらにはちょっと多いぜ、あのフランスパン。
こんなとこに捨てられちまったときはどうなるかと思ったけど、楽勝だわ。
ミャアミャア可愛い声出しときゃ、何かしら食いもんくれるとわかったからな。
公園暮らししてたときより成功率高い。思うに、この段ボールが効いてる。
段ボールに入ってるってだけで、人間も一発で捨て猫ってわかるからな。同情も誘える。
そこからはもう楽なもんよ。人間の女なんて特に。
端からあんなやつら信用してねーが、生きるためだ。利用できるなら利用してやる。
自分で言うのもなんだが、おいらってめっちゃキュートだし?
毛づくろいは毎日欠かさねーし?
見ろよこの毛並、ふわふわだぜ。雲より軽い。
喉かわいた。ちょいと鳴いてみるか。
ミャア。
てか人いねーし。ま、水くらい自分で飲みに行くか。
お。
あいつ、昨日おいらを捨てたあいつじゃね?
何しにきやがった。
お?お?なんだなんだ。
・・・・・。
もうちょっと優しく撫でろよ。もうちょい右!そう、そのへん。
よしよし。結構上手いじゃん。
なんだ、何を言ってんだこいつ。
ゲッ、泣いてるし。
キモっ。
あ、どこ連れてく気だ。
わかった、保健所だろ。この野郎。
そうはいくかってんだ。今すぐ逃げ・・・
・・・。
まてよ。いいこと思いついた。
公園なら水も飲めそうだな。近くまで連れてってもらうか。
んで、隙をみて逃げよう。
これが渡りに舟ってやつか?くひひ、ありがと。
腹いっぱいで、歩くのだるかったんだよ。