少女と男と茶色い子猫

少女

朝だ。ベッドから起きだして、窓を開ける。

視界に雲ひとつない空が広がる。いい天気ね。眩しいなぁ。

うわっ木枯らし。風冷たい!

ぶるぶる。

ミャア。

えっ、何?

下から聞こえた。

あ、道路のわきに・・・小さな段ボール。

あ、茶色い子猫がいる。

捨て猫だ。かわいそうに。

朝から気が滅入っちゃうなぁ、もう。

誰よ、捨てたの。

あら、向こうから誰か歩いてくる。素敵なトレンチコートね。

歩き方もゆったりしてるわねぇ。きっと頭の良い方だわ。

あ、立ち止まった。・・・・じっと子猫を見つめてる。

近づいてく・・・・あ、しゃがんだ。

子猫を撫でてるのね。手つきがとっても優しい。

こっちに背を向けてるのでわからないけど、何か話しかけてるみたいね。

子猫、気持ちよさそうに目を閉じてる。あんなに可愛いのにな。

ほんと、誰が捨てたんだろう。ひどいことするわね。

あ、子猫を抱っこしてる。そのまま帰っていくわ。

よかったね。今度は可愛がってもらえるといいね。

あの人ならきっと大丈夫。私にはわかる。

ほっ。

あ、もうこんな時間。一階からも朝ごはんの匂いがしてきた。

今気が付いたけど私、腹ペコだ。




朝か。結局一睡もできなかった。

朝日が眩しい。俺を責めたてているようだ。

しかたない、支度するか。

意外とああいうことできないんだな、俺。

俺は平気かと思ってたぜ。はぁ。何も食う気しない。

よく考えてみりゃ今時段ボールに入れて子猫を捨てるって、マンガかよ。

いやマンガでも見ねえよ。

はぁ。これから出勤かよ。でもまだ時間あるな。

ちょっと見に行ってみるか。ちょっとだけだ。

・・・ん・・・・・やっぱ、いるよね。いますよね。

てかたった一晩で誰か拾ってくれるわけ、ないよな。

まぁひょっとしたらとは思ったんだが。

ちっ。

こうやって撫でてると確かに可愛いんだがな。やっぱ俺には飼えないんだよ。

ったくあの女、勝手に連れてきたと思ったら、次の日には放っぽりだして出ていきやがって。

お前もほんと、運の悪い奴だよ。なぁ。

・・・・・。

ごめんな、こんな小せぇ段ボールに残してきて。

俺も結局、あの女と同じだよな。

・・・・・。

やっぱこのままじゃ落ち着かない。ケジメはつけないと。

保健所、連れてくか。このまま飢えて死んじまうよりいいだろ?なぁ。

・・・・・。

目から汗。

・・・ずっとこうやって撫でていたいが、そうもいかないよな。

よいしょっと。意外と重いな、お前。

・・・運の悪い奴だよ、ほんと。

あぁ、なんか、腹減ったなぁ。


子猫

ふぁあ、朝か~

まーだ腹いっぱいだ。おいらにはちょっと多いぜ、あのフランスパン。

こんなとこに捨てられちまったときはどうなるかと思ったけど、楽勝だわ。

ミャアミャア可愛い声出しときゃ、何かしら食いもんくれるとわかったからな。

公園暮らししてたときより成功率高い。思うに、この段ボールが効いてる。

段ボールに入ってるってだけで、人間も一発で捨て猫ってわかるからな。同情も誘える。

そこからはもう楽なもんよ。人間の女なんて特に。

端からあんなやつら信用してねーが、生きるためだ。利用できるなら利用してやる。

自分で言うのもなんだが、おいらってめっちゃキュートだし?

毛づくろいは毎日欠かさねーし?

見ろよこの毛並、ふわふわだぜ。雲より軽い。

喉かわいた。ちょいと鳴いてみるか。

ミャア。

てか人いねーし。ま、水くらい自分で飲みに行くか。

お。

あいつ、昨日おいらを捨てたあいつじゃね?

何しにきやがった。

お?お?なんだなんだ。

・・・・・。

もうちょっと優しく撫でろよ。もうちょい右!そう、そのへん。

よしよし。結構上手いじゃん。

なんだ、何を言ってんだこいつ。

ゲッ、泣いてるし。

キモっ。

あ、どこ連れてく気だ。

わかった、保健所だろ。この野郎。

そうはいくかってんだ。今すぐ逃げ・・・

・・・。

まてよ。いいこと思いついた。

公園なら水も飲めそうだな。近くまで連れてってもらうか。

んで、隙をみて逃げよう。

これが渡りに舟ってやつか?くひひ、ありがと。

腹いっぱいで、歩くのだるかったんだよ。

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