ほどよい緊張と集中―井端弘和『勝負強さ』を読んで①

中日ドラゴンズ井端弘和さんの『勝負強さ』を読んだ。

勝負強さ (角川oneテーマ21)

勝負強さ (角川oneテーマ21)

以下簡単な井端選手のプロフィール

 

1975年5月12日生まれ。97年のドラフト5位で中日ドラゴンズに入団、2001年から主に遊撃手(ショート)でレギュラーに定着。173センチと小柄だが二塁手荒木雅博とともにドラゴンズの内野の要を務める、俊足巧打のユーティリティプレイヤーベストナイン5回、ゴールデンクラブ賞7回受賞。13年のWBCでは2次ラウンドMVPと大会ベストナインに選ばれた。

 

僕が言うまでもないですが、ドラゴンズファンならこの人を知らない人はいません。ドラゴンズファンじゃないがプロ野球は好き、みたいな人でも、名前くらいなら知ってるはずです。

今はめっきりプロ野球中継をみることもなくなったので今のプレーは全くわからないんですが、僕も大学に入る前まではよくテレビで試合を観戦していました(今は下宿にテレビがない・・・)。

地元がドラゴンズのホームだったので、自然と応援するのは中日ドラゴンズです。その中で井端選手の印象を一言でいえばまさに「俊足巧打」。大体打順は1番か2番、打率は常に3割ちょい。バットでも守備でも抜群の安定感を誇る、ベテラン中のベテランという感じでした。ドラゴンズでも1,2を争う人気の高い選手でしょう。

 

もちろん僕も彼のプレーが大好きだった一人で、ふと本屋でこの本が目に留まったので買ってみました。僕は全く観てなかったんですが、今年2013年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で活躍され、井端選手に注目が集まったようですね。本の中にも、WBCでのプレーにたびたび触れています。

 

ちなみに。

タイトルにある通り、この本の主題は『勝負強さ』ですが、第一章の「集中する力」でそのほとんどが語られています。はっきり言って第2章以降は彼の 「野球論」であり、僕ら一般人がこの本を読んで吸収できるであろう「人生論」的な神髄はあまり書かれていないように感じました。なので野球ファンとして買うなら全く問題なく楽しめるんですが、「あまり野球のルールとか知らないな、でも井端選手の書いた本なら読んでみたい・・・」みたいな人は(野球の細かいルールや状況の説明など)イメージしにくい部分もあるでしょう。

 

 

井端選手が語る「勝負強さ」の神髄

そして第一章で井端選手はその勝負強さ、土壇場で力を発揮するための心境と心理を「ほどよい緊張と集中」と語っています。

プロ生活16年の一流選手が出した答えがこれです。実はこれ、昔「世界一受けたい授業」という番組で元メジャーリーガーの松井秀喜選手が言っていたこととほぼ同じなんです。

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松井選手が授業で使った図がこんな感じ。

 

緊張が多すぎてはダメ。だからと言ってリラックスしすぎても力は出せない。緊張とリラックスが大体50%づつの状態にもっていく、そうして初めて最高の結果を出せるということです。井端選手曰く「何ごとに関してもバランスが大事である」。なるほど、これほどの選手が口をそろえるからには、そうなんでしょう。確かに、わかるかも!

 

・・・でも、どうやって?

 

彼らのような一流アスリートでなくとも、僕ら一般人にも、ここ一番の勝負時というのはあります。部活の試合、高校受験、大学受験、就活の面接、好きな人に告白するとき・・・

 

こういった真剣勝負に出るときというのが誰にでもありますが、そんな土壇場で勝負強さを発揮するにはどうすればいいのか?なんとしても結果が欲しい正念場で実力を出し切るために、何をすべきなのか?いくつか方法論があり、まずその一つが「マイナス思考は一切持たない」ということ。

 

井端選手ほどの才能をもってしても、この境地に達するには何度も失敗を繰り返したそうです。そうだろうなぁ、やっぱり厳しい世界だなぁと思いつつ、その「技」を手にするまでのプロセスにはとても親近感を覚えました。こんな感じ↓

 

まずは力んで失敗

それを踏まえ「緊張せずに無心で」を心がける

緊張感が足りず失敗

 

「何も考えずにいこう」「来たボールを打ってやろう」と無我の境地で打席に立つ

実は力みがあって失敗

 

「この球がきたら打ってやろう」と配球を読み狙い球を絞る

狙い球ならたとえクソボール(ストライクではないボール球)でであっても追いかけてしまい、失敗

 

じっくり構えて甘いボールが来たときに打とうとする

いざとなったら体が凍りついて打てず失敗、積極性を失ってしまった

 

こうしてなかなか程よいバランスの域に到達せず成功と失敗を行ったり来たり。。。

 

 

すごい、ほんとにめっちゃ失敗してる。

 

しかも「緊張で思わず力んでしまう」からの「無心を心がけ」るも、逆に「緊張感が足りず」失敗とか、思わず「あるある」って言ってしまいそうな感じです。一流のアスリートでも、失敗は普通の人と変わらないんだなと。

 

僕は「みんな『何度も失敗を繰り返して~』とはいうけど、才能ある人の失敗って一般人の失敗と比べて超レベルの高いもんなんじゃないの?」とか思ってましたが、そうでもないようです。

 一流のアスリートでも、その他大勢の人と変わらない普通の失敗を繰り返し、それでも愚直に試行錯誤して今の境地にたどり着いたのです。

 

 「『ダメだったから次はこうしてみよう』とトライするが、それもまた失敗して、いつの間にかスタート地点に戻ってしまっている。そういう負の連鎖の迷路をグルグルと回っていた」

「失敗を重ねると、『あの球が来るかも、いや、この球種が来るかも』と3つも4つも考え始める。」

「それは迷いにつながる。考えすぎると、結局、バッティングに一番大切な積極性を失うことになるのだ」

と、このように井端選手は言っています。

 

そんな堂々巡りを繰り返しながら、最後はどんな境地に達したのか?それは

「次はこの球が必ず来る。だからそれがきたら、こうやって打とう」というシンプルな思考です。それは「このボールが来い」という中途半端なものではなく、「この球が来るんだ」「だから打つ」という強い確信に基づいた思考。これが、井端選手が最終的に行きついた考え、打席に立つときの心構えです。

 

マイナスな思考は一切持たないというのはつまり、無我の境地を目指すわけでも、来る球を予測する受け身なマインドでもないのです。

 

結局のところ「自分を信じる」ということに帰結するのかなと、僕は思いました。何度もトライアンドエラーを重ねた末、自分の中にある種の確信が芽生える。

 

勝負時、正念場で結果を出そうと思うならば、「その時だけ」結果を欲するというのは虫がよすぎるんでしょうね。きびしいけど、でもほんとそうだよなぁ。。。

 

そんなことを思いました。自戒を込めて。

 ***

続き⇒プレッシャーをはね除ける方法は一つしかない―井端弘和『勝負強さ』を読んで②

 

 

 

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